なおき

今回はボカロP特集の第二弾として「なおき」さんにインタビューをさせて頂きました。作品数は昨年10月に投稿された「瞳のグラビディ」で61作品目を数え、非常に多彩な楽曲を持ち合わせております。そんな「なおき」さんには、ボカロPとしてここまで長く創作活動をして来れた理由についてお聞きするともに、もちろん最新作「瞳のグラビディ」についても深掘りしていきます!

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ELICITYインタビューお受けいただき、ありがとうございます。初めに自己紹介をお願いします。

 こちらこそ貴重な機会をいただきまして、本当にありがとうございます。なおきと申します。いわゆるボカロPとして、2014年から活動しております。主に動画サイトに楽曲を投稿していますが、自主的なCD制作・販売、楽曲提供などもやらせていただいています。俺はあくまでもアマチュアとして活動をしていますが、楽曲を視聴していただけること・楽曲を購入していただけることは本当にありがたいことです。ボカロは誰にでもそういう可能性を与えてくれる素晴らしい文化だと思いますね。

音楽を始めたきっかけや本格的にアーティスト活動を始めることになったタイミングなど今までの音楽経歴について教えてください。

 俺が中学生の頃は、日本では音楽バブルというかJ-POPを中心にCDがたくさん売れる時代でした。テレビでも連日のようにヒット曲を聴く日々でしたね。その中でもいわゆるヴィジュアル系バンドもブームになっていて、俺は特にLUNA SEAが好きでした。音楽を始めたきっかけ=ギターを始めたきっかけはLUNA SEAのINORANさんへの憧れからです。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、その気持ちは今でも変わりませんね。プロの音楽家になろうという気持ちはなく、ずっとLUNA SEAのコピーバンドをやっていました。その一方で、高校生ぐらいからは自分でオリジナル曲を作るようにもなりました。どこかで発表するというよりは周りの友人に聴いてもらう、という感じです。世代的にこちらの読者の方にはわからないかもしれませんが、当時はカセットテープのMTRを使ってたんですよ(笑)本当に今では考えられないぐらいアナログな手法でしたね。
 自分で曲を作って、自分で歌って…ということをやっていましたが、ある日、気づいてしまったんです。「俺は歌が下手すぎる」と(笑)それでやる気を失くして、しばらくオリジナル曲を作ることはやめていました。2014年ぐらいでしょうか、友人がボーカロイドで曲を作ってると知って聴いてみました。もちろんボーカロイドの存在自体は知っていたのですが、ちゃんと曲を聴いたのはその時が初めてだったかもしれません。そうなるともう答えに辿り着くのは簡単でしたね。「俺は曲を作りたいけど、自分では歌えない、気軽に歌を頼める人もいない…よし、ボカロに歌ってもらおう!」思い立ったら行動が早い方なので、すぐに「初音ミク」を買いました。それからは楽曲を作ること、聴いてもらえることがとにかく楽しくて今に至るまで続けています。

Youtube、ニコニコ動画にて拝聴させていただくと、一つのジャンルには捕らわれず、自由な発想力から紡ぎ出される楽曲の数々がリスナーを飽きさせない、そんな振り幅がありました。そこであえてお聞きしますが、なおきさんが思う自分の得意なジャンル、世界感などがあれば楽曲と共に教えて頂ければと思います。

 一番の理想のジャンルは「なおき」です(笑)知っている人が聴けば俺の曲だってわかる、という曲を作り続けることが理想ですけど、それだと答えにならないので真面目に答えます。正直なところ、音楽ジャンルってよくわからないんですよね。はっきりしない回答で申し訳ないのですが、強いていうなら「ポップなデジタルロック」だと思っていただければ良いのではないでしょうか。上記のLUNA SEAのジャンルとは大きく異なりますが、作ってて楽しいのはそういうジャンルですね。ただ、結論としてはやっぱりジャンルは「なおき」でよろしくお願いします(笑)世界観として大事にしているのは「切なさ」です。歌詞もそうですし、伴奏もそうですし、俺の音楽の根底はそこですね。もともと「切ないものを作ろう!」と思っていたわけではなくて、作っていたら結果的にそこに集約されました。例えば、恋愛にしても季節の情景にしてもそうなんですが、切ないものの方が音楽を生み出す原動力になるんですよね。恋愛は上手くいかない方がいいし、太陽よりも月や雨の方がいいし、桜は満開よりも散っていた方がいい。俺自身がパリピではなくて、陰キャだからってだけかもしれませんが(笑)

メリハリの効いたシンセや繊細なギターが特徴的なオケとそれにあった儚いメロディがなおきさんの武器かなと思います。そこで自身の音楽性に影響を与えたものについてお伺いできればと思います、音楽やそれ以外のコンテンツでも構いません。

 繊細なギターについては、間違いなくINORANさんの影響でしょうね(笑)シンセについては浅倉大介さんの影響はあるかもしれません。浅倉大介さんがプロデュースしているアーティストといえば、accessやT.M.Revolutionが有名だと思います。でも俺はIcemanが特に好きで、かなりよく聴いていました。
 また音楽以外のコンテンツとして、上記の「切なさ」の話に通じるのですが、イメージとして常に考えているのは「短歌」です。万葉集や百人一首に代表される古典定型詩ですね。言葉遣いや文字数を意識しているわけではありませんが、テーマや表現技法においては、短歌をイメージしていることは多い気がします。百人一首は特にわかりやすくて、恋愛の歌や季節の歌など現代の音楽テーマに近いものが多く収録されています。そこでも例えば夏の歌は、照りつける太陽ではなくて、夕暮れや夜の情景や虫の音とかを詠っているんですよね。平安時代に海水浴をしていたかどうかは知りませんが、ビーチでヒャッハー!みたいな歌はないんです(笑)季節の歌で言えば、圧倒的に秋の歌が多いのも「切なさ」や「儚さ」の象徴だと思います。だから「切なさ」や「儚さ」というのは、古来から受け継がれる普遍的な日本人らしさのようなものだと思っています。日本人らしさとか、日本語の美しさとか、そういうものが好きなんでしょうね。

ボカロ作品としては今年10月にアップされた「瞳のグラビティ」で61作目になるそうで、ここまで作品を積み重ねることは容易ではないと思いますが、そこまで活動を続けることができた理由はなんでしょうか?

 活動を続けることができた理由は、間違いなく「聴いてくれる方がいるから」です。これは趣味でやっているアマチュアのメリットですね。プロの場合は稼がないといけないので、採算度外視で音楽活動を続けることは難しいと思います。極端なことを言ってしまうと、プロだったら「1人しか聴いてくれないなら辞める」のかもしれませんが、俺は「1人でも聴いてくれるなら続ける」なんです。とは言え、逆にアマチュアならではのデメリットもあります。使える時間が少ないということと、気分が乗らない時は活動しないってことです(笑)マイペースでやっているからこそ続けられるというのもありますけどね。
 はっきり言って、俺よりもクオリティーが高い音楽を作る人はたくさんいます。もちろん俺よりも再生数が多くて、ファンが多い人もたくさんいます。でも、俺よりもオリジナル曲を多く投稿している人はそんなに多くないと思うんですよね。それなりに長い期間にわたって、作品を作り続けて投稿してきたというのは、明らかに自分の強みだなって思います。

最新作「瞳のグラビティ」について何点かお聞きしたいと思います。

①夜の街一人で行き場のない気持ちに葛藤を抱く、そんな情景が思い浮かぶ、感傷に浸れる曲だと思いました。まずはこちらの曲のコンセプトをお聞かせください。

 恋愛をテーマにした創作における「眼」の役割っていろいろありますよね。例えば、眼でメッセージを伝えたり、涙を流したり、目線を合わせたり逸らせたり。その中でも個人的に、人が好きなものを真剣に語っているときの眼の輝きって、すごく良いなって思うんです。語っている内容は理解できなかったとしても、活き活きとした眼を見ているだけで幸せな気分になることもあります。そんな「眼」に吸い込まれたり引き寄せられたりするように片想いをしているイメージで曲を作りました。

②タイトルの「瞳のグラビディ」というのはどういった意味が込められているのでしょうか?

 「グラビティ(gravity)」という英単語には「重力」「引力」の他にも、場合によっては「真剣さ」「真面目さ」という意味があるんですよね。上記のイメージを全て包含するつもりで歌詞とタイトルに「グラビティ」という言葉を使っています。ただ、「眼のグラビティ」だとダサいので「瞳のグラビティ」にしました(笑)

③この曲の必聴ポイントを教えてください。

 Aメロ~Bメロの切なさと、サビのキャッチーさとの対比ですね。あとは全体的に7thコードを多用して、伴奏も(俺にしては)叙情的に仕上げたつもりなので、そこも聴いてもらいたいところです。

④少し話は逸れますが、次回作としてこういったものを作って行きたいなど、構想はあるでしょうか?

 次回作になるかはわかりませんが、ギターを主役にした楽曲は作りたいですね。俺が作る楽曲って、基本的にはギターは脇役なんですよね。唯一弾ける楽器なのに大して上手くないからってのはありますけど(笑)それでもやっぱり、何曲かに1曲はギターを中心とした楽曲を作りたいと思っています。

ボーカロイドは2007年に初音ミクが発売されてからもう13年になるそうです。一過性の流行ではなく今でもなお、たくさんの人に支持をされ新しい楽曲が生み出されています。なおきさんもそんなボカロに魅了された一人だと思いますが、その魅力とはなんだと思われますか?

 冒頭にも述べた通りなのですが「誰にでも音楽家としての可能性を与えてくれる」ことだと思いますね。ボカロユーザーやボカロリスナーの中には、キャラへの愛着を持っている人ももちろん多くいます。でも、俺にはそういう観点はあまりなくて、あくまでもツールとしての有効性と可能性が魅力だと思っています。俺はいわゆるボカロPですが、ボカロをプロデュースしているというよりは、ボカロを使って自分をプロデュースしている感覚が強いです。これについては何が正解というものでもなくて、各人が自由にボカロと接することが大切で、それこそが俯瞰的に見たときの魅力とも言えますね。音楽だけではありません。イラストやMMDやグッズなど、ボカロの愛し方っていろいろあるんですよね。
 今のボカロ文化は、かつてほどの賑わいはないかもしれません。それでも、人気のある人であれば再生数が伸びていたり、今のメジャー音楽シーンにおいてもボカロP出身者が多くいたり、エンターテイメントへの影響力は非常に大きいと思います。たまに若い方と話をすると、思ってる以上にボカロ曲を聴いて育っている方が多いことにも驚きます。今の時代はYouTubeやSNS、あるいはサブスクの普及も相まって、とにかく多くの音楽に触れることができる時代です。プロやアマ、メジャーやインディーズなど問わずに、手軽にあらゆる音楽を聴くことができます。それはリスナーだけでなくアーティストのメリットでもあります。競争率が高くなったとも考えられますが、それは昔も同じで、今の方が単純に誰にでもチャンスが増えたと思いますね。上記で、昔は音楽バブルだったという話を少ししましたが、それはあくまでも表面的かつ局所的なCDセールスの話です。これだけ多くの音楽に手軽に触れることができる今の時代こそ本当の音楽バブルなのかもしれません。その一端を担っているのが、紛れもなくボカロ文化だと思っています。

主に巡音ルカ、鏡音リンなど複数のキャラクターを使って作曲をされているようですが、ご自身の中でこういった曲にこれ、といった使い分けがあるのでしょうか?

 明確に使い分けています。キャラクター性とツールしての機能性の2つの軸で考えています。簡単に言うと巡音ルカは大人っぽい曲で使っていて、鏡音リンは比較的元気な曲で使っています。鏡音レンは男性設定ということもあり、俺自身または男性視点が強い曲で使うことが多いですね。また、巡音ルカも鏡音リン・レンも、バージョンとしてはV4Xというものを使っているのですが、これは昔のものに比べて格段に性能が良いです。細かい調整をしなくてもそれなりに使えて、特に鏡音リン・レンはかなりはっきり発音するので、比較的速い曲にも対応しやすいですね。あとはIAも使っていて、とにかく何でも使いやすいという個人的な印象があります。

たくさんの楽曲の中から選ぶのは大変かと思いますが、初めての方に聞いてほしいイチオシを教えてください。

 新海誠監督の「天気の子」という映画があって、俺はそれがめちゃくちゃ好きなんです。こちらの「Weathering The World」という曲は、その「天気の子」の映画を観たときに作った曲です。俺なりの映画の解釈を踏まえて歌詞を書きました。またメロディーやアレンジについてはシンプルながらも、全体的に逆境に立ち向かう意志の強さを表現しました。もちろん、映画を知らなくても聴いていただきやすい曲だと思います。

今後の活動についてなおきさんとして実現したい目標があれば教えてください。  

 今のところ、具体的な目標はありません。あくまでもアマチュアとして楽しく楽曲制作を続けていくことが目標です。ひとつ考えていることとしては、他の方との共同制作ですね。それはもちろん作品としてのクオリティーを上げるためですが、宣伝効果の期待も込めてです。今まで共同制作はあまりしていませんでしたが、ボカロ作品に限らず、シンガーの方も含めて多くの方と共同制作したいとは思っています。共同制作に限らず、音楽活動をすることによって繋がった人の輪ってすごく大きいんですよね。そういう人との繋がりやそこから生まれる可能性にも、楽しさを見出しているんだと思います。

ありがとうございました。最後に読者の方へのメッセージをお願いします!

 俺もELICITYさんの記事の読者の1人です。ライブハウスに行くのが好きなので、ELICITYさんの記事を通してアーティストのことを知るのがとても楽しいんですよね。その一方で、俺のようにライブハウスに出演することなく、アマチュアとして非常に小規模な活動を続けている音楽家もたくさんいます。興味のなかった方にもそういう音楽家を探したり知ったりするきっかけになれば幸いと思って、インタビューにお答えをさせていただきました。音楽を聴く方の好みというのは多種多様ですが、世の中にある音楽というのも本当に多種多様です。そして今は、YouTubeやSNSやサブスクの普及によって、それらを手軽に聴くことができる時代です。ELICITYさんの記事もそれらに触れる機会の1つだと思います。読者の方が少しでも多くの好みの音楽に出会えることを願っています。最後まで読んでいただいてありがとうございました。

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