ELICITYインタビューお受けいただき、ありがとうございます。初めに自己紹介をお願いします!
立椅子かんなです。主にVOCALOIDを使用した楽曲制作を行っています。宜しくお願いします。
まず「立椅子かんな」という名前について、ひと目ではイメージがつかない印象的な名前がとても目を引きますが、活動名の由来や込めた思いについてお伺いしてもよいでしょうか?
活動名は、キーボードのQWERTYUの部分のカナ配列から取りました。
普段の生活の中でキーボードを使っている時に、ふと、名前みたいだな、と思ったのがきっかけです。
キーボードとそこに書かれた何ともない平仮名の並びが名前みたいに見えたのが個人的に面白かったんです。
また、「椅子の上に立つ」という象徴的な、少し危うさを感じさせる行為が楽曲の世界観とも合っていると思い、そのまま活動名にしました。
音楽を始めたきっかけや本格的にボカロP活動を始めることになったタイミングなど、今までの音楽経歴について教えてください。
楽曲制作を始めたのは中学生の頃です。
音楽を主体的に聴くようになったのもその頃で、まるでビッグバンが起きたように、作ることにも聴くことにものめり込んでいきました。思い当たるきっかけは二つあって…。
音楽の教科書に載っていたDTMの特集を読んだことと、給食時間の放送で流れていたRADWIMPSの「DADA」を聴いて衝撃を受けたことです。
ボカロPとして活動する前からVOCALOIDを使用した音楽はよく聴いていて…。
「自分もボカロPになってみたい」と思うきっかけになったボカロPは、johnさん、ツミキさん、Neruさんの御三方ですね。
特にツミキさんの音楽には、とても影響を受けましたね。
ボカロPとして本格的に活動を始める私にとって、ターニングポイントみたいな存在ですね。
立椅子かんなさんの持ち味と言えば「リリースカットピアノを使用した歯切れのよいリフ」と「叙情的なバンドサウンド」だと思います!こういった楽曲はどの様に生み出されるのか、そのプロセスについてお聞きできればと思います。
私は「インスピレーションやアイデアが頭の中に思い浮かぶタイプ」ではなく、「机に向かってPCと睨めっこしながら頭を捻るタイプ」なので、リリースカットピアノのメインリフのフレーズは特に時間をかけて、試行錯誤しながら音を上下させ、一音ずつ紡いでいくように作っています。
コードから外れた音、簡単に言えば不協和音の入れ方にこだわっています。
バンドサウンドの方は対照的に、自分の手癖のようになっている、好みのコード進行があるので、まずはそれを録音してから、要所を修正・変更して制作しています。
エレキギターは音が潰れて (歪んで) いるので、ダイナミクスなどの演出が難しいのですが、その中でどのように聴き手も私も解放できるような展開を作るかということは、どの楽曲でも制作時、すごく頭を捻って組み立てています。
ボカロというジャンルに限らずご自身の活動において意識しているアーティストなどはいますか?
椎名林檎 (東京事変) さん、ビリー・アイリッシュさんの御二方を特に意識しています。
とにかくカッコいいものに目が無いので、御二方共そうですが「カッコいい曲とその曲を作るカッコいい人」という構図にとても憧れがあります。
他には、ヒトリエ、King Gnu、洋楽だと、Radioheadなどをよく聴いています。
自分の音楽をあえてジャンルで分類するなら「エレクトロ・オルタナティブ・ロック」だと思っています。
言ってしまえば「ごちゃ混ぜ」なので、ジャンルという区分に縛られず様々な音楽・アーティストを聴き、意識しています。
本日、新曲「或る独白」がリリースとなりました、おめでとうございます!拝聴させて頂きましたが、疾走感のあるバンドサウンドをバックに初音ミクが言葉を絞り出す様に歌い上げるメロディが胸に突き刺さる楽曲でした。早速ですが今作についていろいろお伺いできればと思います。
①「或る独白」というタイトルの通り、この曲は立椅子かんなさんの気持ちを吐露したものだと思うのですが、「頽廃的な将来像を看取って居る」という歌詞からも想像するに、まさに今のコロナ禍で先行きの見えない不明瞭な未来に対して、人々が漠然とした不安を心に抱いている状況はこの曲と重なる部分があると思います。この曲を通して伝えたいこと、もしくは込めた思いについてお聞かせください。
この曲では、昨今の「人間の心情」を描くつもりで作っていたので、普遍的な言葉選びをしたつもりです。サビの歌詞が1番も2番もラストも同じものになっているのは「この曲で表現したいことを全て託すことができた」と思えたからです。「喜怒と哀楽と悲喜交交 此の感情全部歌って了えば 私 いつも幸福だって思えた」これが今の私の答えで。
とはいえ、幸福だと思えたから楽観的なのかと言われると、そういうわけでもなくて。
どこまでいっても私は私で、この感覚は全ての人にとって共感できるものだと思います。
だから、いつも心のどこかでは哀しいし、そういう自分を否定することはできない。
幸福だと思えた反面、「頽廃的な将来像を看取って居る」のも事実なんです。
私も含め、創作者は自分の活動が、俯瞰的に見れば人間は自分の生活が、どうなるか見えてこない。
コロナ禍もその感覚を確かに強くしたと思います。
そういった悲観的な部分を描かないことは避けたかったんですよね。
「人間の心情」を描くには、ポジティブなことだけでは有り得ないなと思って、サビの後半の歌詞を書きました。
だからこのサビの歌詞には、そういった、人間の楽観的な部分と悲観的な部分、その二つを共存させるという、私の意志を込めています。
②曲に関してですが、まず冒頭ドラムのビートからの畳み掛けるようなピアノフレーズに思わずテンションが上ってしまいました!またピアノ、ギター、ベースも要所要所でそれぞれ魅せるフレーズがありとても聴き応えがあります。一曲を通してどのようなイメージを持って制作されたのでしょうか?
曲に関しては、約3分30秒という短い時間の中に、詰め込めるだけの要素を詰め込んでいこう、と考えながら制作していきました。
それは、整頓されて安定している調和の取れた音楽よりは、まとまりがなくて、不安定で不均衡な音楽の方が、より「人間」の実態的な描写ができるかなと思ったからです。
また、今の音楽にはとにかく飽きさせないことが求められてくるので、サビを同じ歌詞で繰り返すと決めた以上、それ以外の部分での変化を盛り込む必要があったんです。
③最後のアウトロでピアノのピッチが不安定な部分があり良い意味でドキッとしました。これは歌詞の不安感のようなものを意図的に表現しているのでしょうか?
素敵な考察、ありがとうございます。嬉しいです。実はこのピアノのフレーズは全サビの後ろで鳴っているんですが、アウトロで特に注意が向くのは、転調をしたこととボーカルが無くなることによる、複合的な効果だと思います。私は意図的に不協和音を鳴らすことがよくあるんですが、それは緊張感や、今回の曲の場合不安感のようなものを演出できるからです。勿論やり過ぎると耳についてしまうので、バランスにはいつも苦慮しています。(笑)
④リスナーに「この部分は注目して欲しい!」という様な必聴ポイントはどこでしょうか?
二番サビに入る直前の三連符のフレーズが特に気に入っていますね。
⑤ジャケット写真のアートワークについて、女性の顔を覆うように手が被さっているデザインが印象的ですが、こちらのコンセプトや世界観についてお聞かせください。
今回、ジャケットとMVイラストは葵山わさびさんにお願いしました。このデザインは葵山さんが出してくれたアイデアです。「三猿」のことわざをモチーフとして、三つのうち「言わざる」に当たる部分の手が被さらないことで、主人公の女性が「或る独白」を述べられる、という意味になっています。
ここからは立椅子かんなさんのボカロやその文化に対する思い、考えをお聞かせ頂ければと思います。
①ボカロや歌ってみたなど、いわゆる生のLIVE主体というよりは音源をアップする活動をベースとした「ネット発の音楽」や「ボカロP」という存在がだいぶ世の中に受け入れられて来たと感じていますが、このような世の中の反応についてボカロPとしてどのような印象をもたれましたか?
素直に嬉しく思っています。自分が昔から親しんできた芸術ですし、作品を観賞していて「ここにこんなに良い作品がたくさんあるのに」という気持ちが無かったわけではないので、世の中に受け入れられ始めて、一リスナーとして喜ばしいなと思っています。
ただ、一クリエイターとしては、所謂「ネット発」という言葉で括られるような音楽の区分には、少し不思議な感覚があります。例えば、最近だとAdoさんの「うっせぇわ」 が「ネット発」の音楽として注目を集めていますが、音楽としてはロックだなと個人的に感じるし、特別に「ネット発」として一般的な音楽と概念的に区別される理由が、正直私にはあまり分からずにいます。
音楽のジャンル以前の、音楽そのものへラベリングされてるのかなと思うと、少し不安になりますね。
②ボカロの登場は自分の曲を世に出すというハードル下げたことのみならず、音源に伴ったMVやイラストを作成するクリエイターだったり、歌い手として他人の曲を歌うことで表現するなど、多くの人に可能性ときっかけを提供できるプラットフォームになっていると思います。今後も根強い人気のコンテンツとなると思いますが、ボカロが続いていくためにはどのような変化が必要になると思いますか?ボカロP視点でのご意見を聞かせて頂ければと嬉しいです。
私はあくまで一人のしがないボカロPですが、確かに私自身「VOCALOIDによって人生に潤いと輝きが得られた一人」でもあります。多くの人に可能性ときっかけを提供できるプラットフォームになっているという意味で、VOCALOIDは言わずもがな非常に素晴らしい文化だと思います。
ですが、VOCALOIDは「きっかけ」以上になることが難しい文化なのかなとも思います。
ボカロPが一人のアーティストとして活動の幅を広げようとすると「ボカロを踏み台にした」という批判の声が挙がることがあります。それだけVOCALOIDを愛している人が多いということでもありますが、どれだけ「ネット発の音楽」や「ボカロP」が世間に浸透しても、合成音声よりも人間の声を好む人の割合の方が多い状態は変わらないのが現実なので、活動の幅を広げることは必然的にそういった需要に対応することを意味し、ボカロPはVOCALOIDから離れていかざるをえない、という流れがあるんだと思います。
「ボカロが続いていくために」と言うとおおげさですが、個人的には、ボカロは「きっかけ」であり続けて欲しいと思っています。
逆に言えば、「きっかけ」であり続けてさえいれば、音楽を始めようと志した人にとって、これほど懐の広いフィールドは他にないと思います。
そのうちに、いつの間にか合成音声と人間歌唱の間の質的な差が薄まっていき、世間に自然と、さらに浸透していく気がしています。
③近年ボカロPや歌い手の数もどんどん増えてきています。リアルでのLIVEや活動というのもアーティストとして一つの選択肢ですが、ネットカルチャーの中で、ボカロPとして表現することの楽しさについてお伺いできればと思います。
ネットカルチャーの一番の強みは「プライベートな情報をほとんど明かさずに活動できること」だと思います (私は特にその恩恵を強く受けています…)。
プライベートな情報というのは、容姿や性別や年齢などです。特に容姿については、yamaさん、Adoさん、ACAねさん (ずっと真夜中でいいのに。)、n-bunaさん (ヨルシカ) など、ネットカルチャーを活動の起点としているアーティストの多くが明かさずに活動を続けています。
「〇歳なのにすごい」や「女性だからこそ書ける歌詞だ」などの評価を受けている作品や作者を見かけることが少なくないですが、年齢や性別、その他一切のプライベートな情報は本来作品とは無関係なものだと思っています。
そういう意味で、余分な情報を極力削ぎ落とした状態でボカロPとして活動することで、自分の作品をより純粋な評価の俎上に載せることができる、という点がとても楽しいです。
音楽を通して表現していく中でこだわっている部分や譲れないものはあるでしょうか。
勿論自分の趣味趣向も大切にしますが、それと同じくらいリスナーの趣味趣向や流行りの音楽の特徴なども大切にしています。喩えになりますが、どんなに綺麗に花が咲いていても、咲いていることを認識されないとその綺麗さは気づかれません。
なので、作品至上主義とまではいかないかもしれませんが、とにかく、作品ができるだけ多くの人に聴かれ愛されることを第一に考えています。
今後の活動について実現したい目標があれば教えてください。
俗っぽい気もしますが、ここは正直に…。まずは、YouTubeで100万再生されたいです。
インタビューへのご回答ありがとうございました。最後に読者の方へのメッセージをお願いします!
最後まで読んでくださりありがとうございます (拙文、失礼しました)。
新曲「或る独白」も含め、今後とも立椅子かんなをよろしくお願いいたします。
「或る独白」配信URL:
https://lnk.to/kanna_arudokuhaku
Youtube:
https://www.youtube.com/channel/UCffKiGkqNxZnsqdDmG7s8Hg
Twitter:
https://twitter.com/_qwer_tyu_
ニコニコ動画:
https://www.nicovideo.jp/user/93437494
<アーティスト情報>
立椅子かんな(たていすかんな)
正体不明・声帯不明の謎に包まれたボカロP。2020年2月29日に「kanata」をニコニコ動画・YouTubeに初投稿。
9月には1st mini Album「閏」(うるう)をリリース。
その他にもCompilation Album「FLUX」への参加なども行っている。
12月には配信シングル「you complete me」をリリース。
今回の特集にあたり、ポリシーを持って活動されていて、
インタビューさせていただけるボカロP様を募集しています。
ご参加いただける方は、以下条件を踏まえた上で、のフォームよりご回答いただければ幸いです。
<インタビュー掲載料:2,000円>
※活動の実績が長い間ない場合や、
MVなどの再生数が2,000未満の場合、掲載をお断りさせていただく場合がございます。